TMathYBlog

主に数学関係の記事を書きます

ゼロから始める三角比 Part4

例題1

次の図4.1のような直角三角形ABCにおいて、角Aの大きさ  x を求めよ。また、辺ABの長さ  y 、辺ACの長さ  z をそれぞれ  L({50}^{\circ}) を用いて表せ。

 \; 4.1

例題1の解答

 三角形の内角の和は  {180}^{\circ} なので、角A  = x 、角B  = {50}^{\circ} 、角C  = {90}^{\circ} より

 x + {50}^{\circ} + {90}^{\circ} = {180}^{\circ}

が成り立つ。したがって、

 x = {40}^{\circ} \quad \cdots \cdots (答)

 次に、辺BCの長さは  4 なので、辺ABの長さ  y L(4, {50}^{\circ}) と表せる。したがって、

 y = L(4, {50}^{\circ}) = 4 \; L({50}^{\circ}) \quad \cdots \cdots (答)

さらに、三平方の定理より、

 4^2 + z^2 = y^2

が成り立つので、

\begin{align} z^2 &= y^2 - 16 \\ \displaystyle &= \left( 4 \; L({50}^{\circ}) \right)^2 - 16 \\ \displaystyle &= 16 \; L({50}^{\circ})^2 - 16 \\ \displaystyle &= 16 \left( L({50}^{\circ})^2 - 1 \right) \end{align}

と表せる。したがって

 \displaystyle z = 4 \sqrt{L({50}^{\circ})^2 - 1} \quad \cdots \cdots (答)

例題2

次の図4.2のような三角形ABCにおいて、角Aの大きさ  x を求めよ。また、辺ABの長さ  y 、辺ACの長さ  z をそれぞれ  L({25}^{\circ}) L({70}^{\circ}) を用いて表せ。

 \; 4.2

例題2の解答

 三角形の内角の和は  {180}^{\circ} なので、角A  = x 、角B  = {25}^{\circ} 、角C  = {70}^{\circ} より

 x + {25}^{\circ} + {70}^{\circ} = {180}^{\circ}

が成り立つ。したがって、

 x = {85}^{\circ} \quad \cdots \cdots (答)

 次に、下の図4.3のように、三角形ABCにおいて点Aから辺BCに向かって垂線(辺BCと垂直になるような線)を引き、その垂線と辺BCが交わる点をDとする。

 \; 4.3

このとき、辺BDの長さを  k とすると辺DCの長さは  5 - k と表せるので、辺ABの長さは  L(k, {25}^{\circ}) 、辺ACの長さは  L(5 - k, {70}^{\circ}) と表せる。したがって、三平方の定理より

\begin{align} k^2 + {AD}^2 &= {L(k, {25}^{\circ})}^2, \\ (5 - k)^2 + {AD}^2 &= {L(5 - k, {70}^{\circ})}^2 \end{align}

が成り立つ。これより、

\begin{align} \displaystyle AD &= \sqrt{{L(k, {25}^{\circ})}^2 - k^2} \\ \displaystyle &= \sqrt{k^2 {L({25}^{\circ})}^2 - k^2} \\ \displaystyle &= k \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1}, \\ \displaystyle AD &= \sqrt{{L(5 - k, {70}^{\circ})}^2 - (5 - k)^2} \\ \displaystyle &= \sqrt{(5 - k)^2 {L({70}^{\circ})}^2 - (5 - k)^2} \\ \displaystyle &= (5 - k) \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} \end{align}

となるから、

 \displaystyle k \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1} = (5 - k) \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1}

が成り立つ。これを  k の方程式と見て  k について解くと、

 \displaystyle k = \frac{ 5 \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} }{ \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1} + \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} } \quad \cdots \cdots (\ast)

となる。

 辺ABの長さ  y L(k, {25}^{\circ}) 、辺ACの長さ  z L(5 - k, {70}^{\circ}) だから

\begin{align} y &= L(k, {25}^{\circ}) = k \; L({25}^{\circ}), \\ z &= L(5 - k, {70}^{\circ}) = (5 - k) \; L({70}^{\circ}) \end{align}

となる。これに  (\ast) を代入すると、

 \displaystyle y = \frac{ 5 \; L({25}^{\circ}) \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} }{ \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1} + \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} } \quad \cdots \cdots (答)
 \displaystyle z = \frac{ 5 \; L({70}^{\circ}) \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1} }{ \sqrt{{L({25}^{\circ})}^2 - 1} + \sqrt{{L({70}^{\circ})}^2 - 1} } \quad \cdots \cdots (答)

例題を通して

 上の2問の例題を通して、「関数  L(\theta) を使うことで未知の辺の長さが表現できる」ことの威力が分かってもらえたと思う。この例題では  L({25}^{\circ}) L({70}^{\circ}) などはそれ以上深堀せずに解答とする形を取ったが、こうすることで次に我々の頭の中では以下のような疑問が自然と湧いてこないだろうか。

「もしこの  L({25}^{\circ}) L({70}^{\circ}) の値が具体的に求められれば、辺の長さももっと具体的な数値として表せるのではないか」

次以降の記事では、まさにこの疑問に応えるべく関数  L(\theta) の性質について本格的に調べていくこととする。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ゼロから始める三角比 Part3

 前回の記事(ゼロから始める三角比Part2)では、図形(多角形)における最小単位(細胞)にあたる直角三角形について詳しく調べ、底辺の長さ  a とそれに隣接する角の大きさ  \theta に応じて定まる関数  L(a, \theta) についても触れた。今回の記事ではその関数  L(a, \theta) が満たす性質について、さらに詳しく調べていくことにしよう。

関数  L(a, \theta) のおさらい

 \; 3.1

 上の図3.1のように、底辺の長さが  a で、その両端の角のうち直角ではない方の角の大きさが  \theta であるような直角三角形ABCを考える。このとき、斜辺ABの長さは  a \theta の値に応じて定まる。このときの斜辺ABの長さを  L(a, \theta) と表す。

 前回の記事(ゼロから始める三角比Part2)でも述べたように、この関数  L(a, \theta) を我々がよく知っているような関数で明示的に表す方法は未だ発見されていない。したがって関数  L(a, \theta) はもうこの  L(a, \theta) という形のままで取り扱っていくしかないのだが、明示的な表現方法が無かったとしても、定義から直接成り立つ性質などがもしあればそれ自体は定理として有用である。よって、そういった性質が何か無いかどうかをこれから調べていこう。

関数  L(a, \theta) の基本性質

 関数  L(a, \theta) は実は次のような性質を持っている。

 L(a, \theta) = a \; L(1, \theta) \quad \cdots \cdots (\ast)

 L(a, \theta) L(1, \theta) a 倍したものに等しい。この性質は、実際に図を描いてみれば「三角形の相似性」からほぼ明らかではあるのだが、ここではあえて相似性は使わずに証明してみよう。

証明  \quad  L(a, \theta) L(1, \theta) を定義に従って図示すると、次の図3.2のようになる。

 \; 3.2

 図3.2において、三角形ABCの面積を  S 、三角形DBEの面積を  S_1 、四角形(台形)ADECの面積を  S_2 とおくと、

 S = S_1 + S_2 \quad \cdots \cdots (\ast\ast)

が成り立つ。

 今、三平方の定理より、

\begin{align} \displaystyle AC &= \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \\ \displaystyle DE &= \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \end{align}

が成り立つので、3つの面積  S, S_1, S_2 はそれぞれ

\begin{align} \displaystyle S &= a \times \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{a}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \\ \displaystyle S_1 &= 1 \times \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{1}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \\ \displaystyle S_2 &= \left( \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} + \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \right) \times (a - 1) \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{a - 1}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} + \frac{a - 1}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \end{align}

と表せる。

 これらを  (\ast\ast) に代入すると、

 \displaystyle \frac{1}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} = \frac{a}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1}

が成り立つ。両辺を2倍して2乗すると、

 \displaystyle {L(a, \theta)}^2 - a^2 = a^2 \left( {L(1, \theta)}^2 - 1 \right)

となるから、

 {L(a, \theta)}^2 = a^2 {L(1, \theta)}^2

となる。  L(a, \theta) は正の値しか取らないので両辺の正の平方根を取れば  (\ast) が成り立つ。

 図3.2では  a \gt 1 の場合を考えたが、  0 \lt a \lt 1 の場合も同様の方法で  (\ast) が示せる。  a = 1 の場合は明らかである。以上により、すべての正の数  a (\ast) が示された。  \qquad \blacksquare

この性質から何が言えるか

 この性質から何が言えるかというと、「関数  L(a, \theta) において  a がどんな値であっても、それは必ず  L(1, \theta) を用いて表せる」ということである。どんな  L(a, \theta) でもどうせ  L(1, \theta) で表せてしまうのだから、裏を返せば  L(a, \theta) という記号はもはや不要なのである(自分で定義しておいてなんだが)。  L(1, \theta) さえあればそれですべて事足りてしまう。というわけで、今後は  L(1, \theta) だけは特別扱いすることにして、 1, 」の部分を省略して単に「  L(\theta) 」と書き表すことにしよう。もし今後  L(\theta) という記号が出たら、それは  L(1, \theta) の略、つまり底辺の長さが  1 であるような直角三角形(下の図3.3のような状況)を考えているのだと思ってほしい。

 \; 3.3

そして今後は関数  L(a, \theta) に代わって関数  L(\theta) の性質を調べていくことにする。先ほど証明した性質を  L(\theta) の表記で書き換え、「L関数公式1」という名前で再掲しておこう。

L関数公式1  \qquad L(a, \theta) = a \; L(\theta)

 「図形(多角形)の性質を調べる」という大雑把なお話からスタートして、「直角三角形における関数  L(\theta) の性質を調べる」というかなり具体的なところまで「やるべきこと」を落とし込むことができた。これ以降のお話は、その「関数  L(\theta) の性質を調べる」という内容に焦点を当てて記事を書いていくことになるのだが、ここで一旦ここまでの内容(ゼロから始める三角比Part1~3)の総復習として、次の記事ではいくつか例題を解いていくことにしよう。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ゼロから始める三角比 Part2

 前記事(ゼロから始める三角比Part1)では、図形(多角形)における最小単位、いわば「細胞」にあたるのが「直角三角形」であることを述べた。この記事ではその細胞にあたる直角三角形について詳しく調べていくことにしよう。

三角形において重要な情報とは何か

 「詳しく調べる」と言っても具体的に何を調べればいいのかピンとこないと思うので、ここで「三角形が持っている情報」について考えてみよう(ここでは一旦直角三角形に限らず一般の三角形も含めて考える)。

 三角形というのはその名の通り「3つの角」を必ず持っている。また、それに伴い当然「3つの辺」も持っている。これは見た目から明らかだろう。つまり、下の図2.1のような三角形ABCがあったとき、「この三角形が持っている情報を挙げよ」と言われたら次の6項目が挙げられる。

 \; 2.1

三角形が持っている情報

  1. 角A

  2. 角B

  3. 角C

  4. 辺AB

  5. 辺BC

  6. 辺AC

何も難しいことはない当たり前のことを書いただけであるが、この情報が三角形を調べる上で非常に重要な情報であり、同時にこの6項目が「三角形が持つ情報のすべて」なのである。言い換えれば、上に挙げたこの6項目がすべてハッキリすれば「その三角形について完全に調べ上げた」と言っていい、ということである。

三角形の決定条件

 さて、何を調べたらいいかがはっきりしたところで、ここで「三角形の決定条件」についてお話しよう。「なんだそれは」と思われる人も多いかもしれないが、記憶が良い人は中学校のときに「2つの三角形の合同条件」という定理(れっきとした定理である)で次の3条件を勉強したのを覚えているだろうか。

三角形の合同条件

  1. 2つの三角形の3辺の長さがすべて等しい。

  2. 2つの三角形の2辺とその間の角がすべて等しい。

  3. 2つの三角形の1辺とその両端の角がすべて等しい。

2つの三角形があったときに、上の3条件のうちどれか1つを満たせばその2つの三角形は合同(形としてまったく同じ)である、という定理である。ここで、当たり前であるが「合同(形が同じ)である」と言うからには、当然両者の三角形の形はただ一通りに確定していなければならない(確定していなければそもそも「形を比較」すること自体できない)。つまり、この3つの合同条件は、合同条件であると同時に三角形の「決定条件」にもなっているということである。

 より丁寧に言うなら、ある三角形があったとして、その三角形が次の3条件のうちどれか1つを満たせば「その三角形の形はただ一通りに確定している」と言える、ということである。

三角形の決定条件

  1. 三角形の3辺の長さが分かっている。

  2. 三角形の2辺とその間の角が分かっている。

  3. 三角形の1辺とその両端の角が分かっている。

さらに言うと、前述の「三角形が持っている情報」の6項目(3つの角と3つの辺)について、この6項目すべてを実際に分度器や定規などで測定して調べなくても、上の「三角形の決定条件」のうちのどれか1組(「3辺」or「2辺&1角」or「1辺&2角」)さえ分かっていれば残りの情報は「計算で自動的に求められる」ということである。

 ここで直角三角形に話を戻そう。三角形の中でも特に直角三角形の場合、その名の通り3つの角のうち1つは「直角」だと分かっているのだから、もし直角三角形において上の「三角形の決定条件」のどれかを使おうとなったら、必然的に「1.」を選ぶ必要性はなく「2.」か「3.」のどちらかになるだろう。今回の記事では、特に「3.」に着目して議論を進めていく

※「2.」に着目しても良いのだが、そうすると出来上がる理論が「3.」に着目した場合と比べて若干複雑になってしまう上に応用の幅があまり効かなくなってしまう。

「1辺とその両端の角」から他の情報を求める

 これまでの議論をもって、図形(多角形)における細胞(最小単位)である直角三角形を詳しく調べるために我々が何をすればいいか、これでハッキリしただろう。直角三角形において、「三角形の決定条件」の「3.」つまり「1辺とその両端の角が分かっている」という状況で、先に挙げた「三角形が持っている情報」の6項目の残りを計算で求めていく。これが我々がやるべきことである。

 先ほども述べたように、直角三角形の場合3つの角のうち1つは「直角」だと分かっているので、「1辺とその両端の角が分かっている」という仮定を前提にするならあともう2つの仮定(1辺の長さと1角の大きさ)が必要である。今、それらをそれぞれ下の図2.2のように設定する。

 \; 2.2

直角三角形の底辺にあたる辺BCの長さを  a 、そしてその両端の角にあたる角B、角Cのうち直角ではない方(角B)の大きさを  \theta とした。この状況のもとで、三角形ABCの他の情報、つまり「角Aの大きさ」「辺AB(斜辺)の長さ」「辺AC(高さ)の長さ」を計算で求めていくことを考える。

 まずパッとすぐに分かるのは「角Aの大きさ」である。なぜなら、三角形の内角の和は  {180}^{\circ} なので

角A  + 角B  + 角C  = {180}^{\circ}

が成り立ち、角B  = \theta 、角C  = {90}^{\circ} より

角A  + \; \theta + {90}^{\circ} = {180}^{\circ}
角A  = {90}^{\circ} - \theta

と求められるからである。

 問題は「辺AB(斜辺)の長さ」と「辺AC(高さ)の長さ」である。実は、結論から言うと与えられた「  a 」「  \theta 」「  {90}^{\circ} (直角) 」の3つの情報からこれらの辺の長さを明示的に求める一般的な解法というのは未だ発見されていない \theta がある特殊な値のときに限り計算可能ではあるのだが、一般的な求め方というのは発見されていない。

 ただ、もし斜辺ABと高さACの2辺の長さのうちどちらか一方が分かれば、そこから残りのもう1辺の長さを求めることは容易である。中学校で学んだ「三平方の定理」を使えば求めることができる。具体的に書くと、三角形ABCは直角三角形なのだから三平方の定理より、

 {BC}^2 + {AC}^2 = {AB}^2

が成り立つ。今、仮に斜辺ABの長さが  L 、すなわち  AB = L だったとしよう。すると、

 a^2 + {AC}^2 = L^2

となるので、高さACの長さは

 \displaystyle AC = \sqrt{L^2 - a^2}

と求めることができる。

 \; 2.3

 ここまでの議論をまとめると、与えられた「  a 」(底辺BCの長さ)、「  \theta 」(角Bの大きさ)、「  {90}^{\circ} 」(角Cの大きさ)の3つの情報から残りの「角Aの大きさ」「辺AB(斜辺)の長さ」「辺AC(高さ)の長さ」をすべて明らかにするためには、上で仮定した  L の値が分かればいいということになる。この値さえハッキリすれば残りの情報がすべて具体的に求められるので、「直角三角形ABCについては完全に調べ上げた」ことになる。しかし、先ほども述べたように、この  L の値を明示的に求める一般的な解法というのは未だ発見されていない。

 「じゃあもうこれ以上は調べようがないじゃないか」と思われるかもしれないが、ここで少しだけ冷静になって考え直してほしい。この  L という値についてだが、最初に設定した  a \theta の値によって変動する値になるのはお分かりいただけるだろうか。つまり、  a が増えたり減ったりすれば  L も増えたり減ったりするし、  \theta が増えたり減ったりすれば  L も増えたり減ったりする。これは  L の定義(斜辺ABの長さを表すということ)を考えてみればすぐに分かる。底辺の長さ(  a )やそれに隣接する角の大きさ(  \theta )がゴニョゴニョ動けば、斜辺の長さである  L も伸びたり縮んだりするだろう。これはつまり、数学の言葉で言えば、  L が「  a \theta の関数」であるとみなすことができる、ということである。したがって、「関数である」ということを強調するために今後  L を特に  L(a, \theta) と書き表すことにしよう。

 この関数  L(a, \theta) を明示的な形、つまり「我々がよく知っている」関数、例えば

 L(a, \theta) = a^2 + {\theta}^2 + a + \theta +1

などでもし表すことができればそれが一番良いのだが、残念ながらそういった表し方は未だ発見されていないので、関数  L(a, \theta) はもうこの  L(a, \theta) という形のままでこれ以降扱っていくことにする。つまり、「  L(a, \theta) がどんな関数かはよく分からないけれどとりあえずこのまま突き進んでみる」のである。「そんなやり方でいいのか」と思うかもしれないが、実は数学においてこういった展開は割とよくあることなのである。対象の関数が明示的に表せない場合、「その関数の正体そのものを突き止めるのはとりあえず一旦諦めてその関数が満たす性質だけでも出来るところまで調べていく」というスタンスである。

 次以降の記事では、関数  L(a, \theta) について明示的に表すことは一旦諦め、  L(a, \theta) が満たす性質を「  L(a, \theta) という形のままで」調べていくことを考える。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ゼロから始める三角比 Part1

ゼロから始める三角比

 今回の記事では、「三角比」について、タイトル通り「ゼロから始めて」考えていくことにしよう。と言っても、三角比がまったく分からない人向けに教科書のように「サインとは何か」「コサインとは何か」を丁寧に教えていく内容  \cdots ではない。確かに本屋さんによくある参考書のようなタイトルだが、そんなありきたりな記事をここで書くつもりは無い。

 この記事で言う「ゼロから始める」とは、「三角比という概念が存在しない世界線を仮定し、文字通り【ゼロから】新たな概念や記号を独自に生み出し、それを用いて高校で出題されるような図形問題を解いていく」といった意味を含んでいる。したがって、ここからはサインやコサインは一旦忘れてもらって、「三角比が存在しない世界線」にワープしたと考えてほしい。

※先にネタバレをしてしまうと、最終的にはサインやコサインと似たような概念を結局生み出すことになるのだが、「ゼロから考えようとしてみる」という発想そのものが大切であると筆者は考えているのでこのような方針の記事にした。ちなみに「似ている」というだけで、登場する公式などは既存の三角比のそれとは微妙に異なる。そこも見所なので是非この先も読み進めていってほしい。

 さて、我々は今、三角比の概念が存在しない世界線にワープした。サインやコサインなどという言葉はこの世界には存在しない。この状況において、我々は次のような発想で様々な図形の性質を調べてみることを考える。

発想  \quad 個々の図形1つ1つを調べるとキリがないので、それぞれの図形を構成する「最小単位」はないだろうか?

 ちなみに、図形と一口に言ってもいろいろなジャンルがあるが、この記事で取り扱う図形は、とりあえずは「平面図形」を考えることにする。もっと言えば、「三角形」「四角形」「五角形」などのいわゆる「多角形」(曲線を用いず直線だけで構成された閉じた平面図形)のみを扱う。

 今、多角形を「人間の体」に例えてみよう。人間の体というのはもちろん千差万別、1人1人が別個体である。顔も違えば体格も異なる。この人類の個体を1つ1つ個別に調べ上げるのは非常に面倒であり非効率的である。そこで、人間の体を構成する最小単位である「細胞」に着目し、「細胞を調べれば人体のすべてが分かるのでは」という発想から「細胞学」という分野が誕生した。

 数学における図形(多角形)もこれと同じ考え方をする。つまり、1つ1つの多角形を調べ上げるのはさすがに骨が折れるので、多角形の世界でいう「細胞」のようなものは何かを考えるのである。

図形(多角形)における「細胞」とは何だろう

 手始めにまずは一番考えやすい「四角形」について考えてみることにしよう。

 図 \quad 1.1

上の図1.1のように、四角形ABCDにおいて点Aと点Dを結んだ対角線を引くと、四角形ABCDは三角形ABDと三角形ACDの2つに分解できる。点Bと点Cを結んだ対角線を引いてもやはり2つの三角形に分解できる。このことから、一般に四角形は2つの三角形に分解できることが分かる。

 では次に「五角形」について考えてみよう。

 図 \quad 1.2

上の図1.2のように、五角形ABCDEも、対角線の引き方にちがいはあっても適切に補助線を引くことによって3つの三角形に分解できることが分かる。

 もうひとつ、今度は「六角形」について考えてみよう。

 図 \quad 1.3

上の図1.3のように、やはり六角形でも同様に補助線を引くことによって4つの三角形に分解できることが分かる。

 以上のことをまとめると、

  • 四角形は「2個」の三角形に分解できる。

  • 五角形は「3個」の三角形に分解できる。

  • 六角形は「4個」の三角形に分解できる。

 \qquad \qquad \qquad \qquad \vdots

一般に、  n 角形は  n - 2 個の三角形に分解できる。このことから、図形(多角形)の「細胞」にあたる最小単位は「三角形」であると答えたくなるところだが、実はこれでは「半分正解、半分間違い」なのである。三角形は三角形でも、実はもうひと工夫することによってさらに細かく分解ができる。

 図 \quad 1.4

上の図1.4のように、三角形ABCにおいて点Aから辺BCに向かって垂線(辺BCと垂直になるような線)を引くと、「直角三角形ABD」と「直角三角形ACD」に分解できる。つまり、一般に「三角形」は2つの「直角三角形」に分解できることが分かる。

 したがって、以上の考察より最初の問いであった「図形(多角形)における『細胞』とは何か」の答えは「直角三角形」となる。どんな複雑な多角形でも、それらは所詮「直角三角形の集合体」でしかないのである。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ε-δ論法 Part3

例題1

次の極限が成り立つことを、極限の定義を用いて証明せよ。

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} = 0

例題1の解答

極限の定義から、次が成り立つことを示せばよい。

 \displaystyle \forall b > 0, \exists a > 0, n > a \; \Longrightarrow \; \frac{1}{n} < b \cdots\cdots①

 \displaystyle a = \frac{1}{b} とおく(この一言が重要)。このとき、

 \begin{align}
n > a &\Longrightarrow n > \frac{1}{b} \\
&\Longrightarrow \frac{1}{n} < b
\end{align}

となる(逆数を取ると不等号は逆転する)。よって、①が成り立つので

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} = 0

が成り立つ。  \qquad \blacksquare

例題2

次の極限が成り立つことを、極限の定義を用いて証明せよ。

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{2n + 5}{3n - 1} = \frac{2}{3}

例題2の注意点

解答に入る前に、この例題における注意点を述べておこう。この例題では

 n を限りなく大きくしたときの  \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} の値が  \displaystyle \frac{2}{3} に近づくことを示せ

と言っている。先ほどの例題1のように  0 に近づくわけではないので、例題1とまったく同じ定義は使えない。少し工夫が必要である。

『極限の値が  \displaystyle \frac{2}{3} に近づく』ということは、言い換えると

もとの数列  \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} から  \displaystyle \frac{2}{3} を引いた数列の極限が  0 に近づく

ということと同じである。つまり、  \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} という数列そのものを考えるのではなく

 \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} - \frac{2}{3}

という数列を考え、これの極限が  0 に近づくことを示せばよいわけである(正確には負の値になるのを避けるために  \displaystyle \left| \frac{2n + 5}{3n - 1} - \frac{2}{3} \right| というように絶対値記号をつけておくべきであるが、今回の例題ではすべての  n においてもともと正の値しか取らないので絶対値記号は不要)。

分かりやすく言えば、先ほどの例題1における  \displaystyle \frac{1}{n} の部分を

 \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} - \frac{2}{3}

に置き換えればよい。では解答に入っていこう。

例題2の解答

極限の定義から、次が成り立つことを示せばよい。

 \displaystyle \forall b > 0, \exists a > 0, n > a \; \Longrightarrow \; \frac{2n + 5}{3n - 1} - \frac{2}{3} < b \cdots\cdots②

ここで、

 \displaystyle \frac{2n + 5}{3n - 1} - \frac{2}{3} = \frac{17}{3(3n - 1)}

だから、②は次のように書き換えることができる。

 \displaystyle \forall b > 0, \exists a > 0, n > a \; \Longrightarrow \; \frac{17}{3(3n - 1)} < b

 \displaystyle a = \frac{3b + 17}{9b} とおく(この一言が重要)。このとき、

 \begin{align}
n > a &\Longrightarrow n > \frac{3b + 17}{9b} \\
&\Longrightarrow 9bn > 3b + 17 \\
&\Longrightarrow 9bn - 3b > 17 \\
&\Longrightarrow 3b(3n - 1) > 17 \\
&\Longrightarrow \frac{17}{3(3n - 1)} < b
\end{align}

となる。よって、②が成り立つので、

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{2n + 5}{3n - 1} = \frac{2}{3}

が成り立つ。  \qquad \blacksquare

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ε-δ論法 Part2

論理の『無限ループ』を作る

今、A君、B君、C君の3人がそれぞれ次のような意見を持っているとする。

  • A「 \displaystyle \frac{1}{n} の値が0.1より小さければ『0に限りなく近づいた』と言えるだろう」

  • B「 \displaystyle \frac{1}{n} の値が0.001より小さければ『0に限りなく近づいた』と言えるだろう」

  • C「 \displaystyle \frac{1}{n} の値が0.00001より小さければ『0に限りなく近づいた』と言えるだろう」

3人の意見はすべてバラバラであるが、前にも述べた『誰もが納得できる客観的な定義』にしないといけないので、この3人の意見をすべて満足させなければならない。

ここで、次のことが成り立つのは容易にわかるだろう。

  •  n の値を10より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.1より小さくなる

  •  n の値を1000より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.001より小さくなる

  •  n の値を10万より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.00001より小さくなる

上の3つの主張はすべて正しい。例えば、1000よりも大きい値として、 n = 2000 だと

 \displaystyle \frac{1}{n} = \frac{1}{2000} = 0.0005

となるので、確かに0.001より小さくなる。

一般に、

 n の値を  a より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は  b より小さくなる。

という主張があったとして、 b の値としてどんなに小さい値を要求されたとしても、必ずそれに対応する  a の値が存在する。

すなわち、

  •  n の値を100万より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.000001より小さくなる

  •  n の値を1000万より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.0000001より小さくなる

  •  n の値を1億より大きくすれば、 \displaystyle \frac{1}{n} の値は0.00000001より小さくなる

 \vdots

というように、最初に挙げた3つの主張を、延々とどこまでも繰り返すことができる。これはつまり、A君、B君、C君、ひいてはすべての人間の意見を満足させることができたのと同じである。

このように、意図的に『論理的な無限ループ』を発生させることで、すべての意見を満足するような、曖昧さのない客観的な定義を作ることができるのである。

これを数式(論理式)で表すと・・・

今話した内容を論理式で書くと、次のようになる。

 \displaystyle \forall b > 0, \exists a > 0, n > a \; \Longrightarrow \; \frac{1}{n} < b

これだけだと何のことかさっぱりなので、この論理式を日本語に翻訳する。

すべての正の数  b に対して、ある正の数  a必ず存在して
 n > a ならば  \displaystyle \frac{1}{n} < b が成り立つ。

つまり、 b の値としてどんな値を要求されたとしても、その  b に対して  a という値が必ず自動的に定まって、その  a よりも  n を大きく取れば  \displaystyle \frac{1}{n} は必ず  b より小さくできる、と言っている。これを満たすときに

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} = 0

と書こう、という定義になるわけだ。

ちなみに、

 b の値に対して  a の値が自動的に定まる

という部分だが、これは数学の言葉を使って言い換えるなら、

 a b『関数』として表せる

ということである。つまり、何かしらの関数  f

 a = f(b)

と表せるということである。

こういった関数  a = f(b)

 \displaystyle n > a \; \Longrightarrow \; \frac{1}{n} < b

を満たすようにうまく見つけることができれば、  n \gt a から出発して  a = f(b) を代入し  n \gt f(b) として、そこから  \displaystyle \frac{1}{n} \lt b まで変形することができる(元々そうなるように関数  a = f(b) を設定しているのだから当たり前である)。

今回の例で言うと

 \displaystyle a = \frac{1}{b}

とすれば、これが関数  a = f(b) にあたるものになっていることが分かる(これが実際に上に述べた極限の定義を満たすことの具体的な証明は次の記事で説明する)。

以上が、極限の厳密な定義の成り立ちとその歴史的背景である。ここでいう「厳密な定義」とは、「表現の曖昧さを排除し、かつ、誰もが納得できる客観的な定義」のことを指す。数学の定義1つでも、その成り立ちを探っていくと、歴史上の数学者たちの苦悩や、「全員の意見を否定せずに漏れなく受け入れるためにはどういった定義にすればいいか」といった倫理的な背景までもが見え隠れしていることが分かってもらえたと思う。

では最後に、この極限の定義を使って、高校のときにやった極限の計算が実際に正しいことを証明してみよう。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr

ε-δ論法 Part1

この記事は、高校数学で学ぶ「極限」についてのお話。一応極限が分からない方でも分かるように書いているので、「そもそも極限ってなんだ?」という人もぜひ読み進めていってほしい。

高校数学における「極限」の定義

 n自然数とする。数列  \{x_n\} に対して、

 n を限りなく大きくしたときの  x_n の値が  x に限りなく近づく

とき、これを記号で

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} x_n = x

と表す。

これは、高校における「極限」の定義である。この定義に従うと、例えば

 \displaystyle \lim_{n \rightarrow \infty} \frac{1}{n} = 0

などが成り立つ。なぜならば、

 n を限りなく大きくしたとき  \displaystyle \frac{1}{n} の値は  0 に限りなく近づく

からである。

そもそも「限りなく近づく」とはどういうこと?

しかし、この高校における極限の定義では、論理的に曖昧な点がある。それは【0に限りなく近づく】という言い回しである。【0に限りなく近づく】とは、具体的にどのくらい近づけばいいのか。0.1なのか、0.001なのか、はたまた0.00001なのか。その明確な「基準」がないからである。

そこで、例えば

 \displaystyle \frac{1}{n} の値が0.001より小さければ、
【0に限りなく近づいた】ということにしよう。

という決め事を作ったとする。確かにこうすれば、明確な基準ができたことになるので【0に限りなく近づく】という言い回しの曖昧さは払拭される。

明確な基準ができたのでこれで一件落着

・・・かのように思われるが、実はこれでも数学の定義としてはNGである。なぜかというと、数学という学問における「定義」とは、暗黙のルールとして「誰もが納得できる客観的なものにしなければならない」ということになっているからである。

世の中には、もしかしたら

0.001より小さいくらいでは【0に限りなく近づいた】とは言えない。
最低でも0.00001より小さくないとダメだ。

などと反論を持ちかけてくる人もいるかもしれない。数学に限らず、科学における定義というのは、一個人の勝手な主観で線引きを決めるのはご法度なのである。それは一個人の価値観の押し付けであり、それを学術的な定義に使うというのは数学うんぬん以前に倫理的な問題が発生する。

では、どうすればよいか。「言い回しの曖昧さを排除し、かつ、誰もが納得できる客観的な定義」とは、どうやって作ればよいのか。

実は当時の数学者たちも、この難題に何年、何十年と悩まされたのである。極限の概念自体が歴史上最初に登場したのは17世紀なのにも関わらず、その厳密な定義が提唱されたのは19世紀に入ってからなので、その間約200年、数学者たちはずっとこの難題に頭を悩ませていたことになる。

では、19世紀に入り、どういう定義が提唱されたのか、それを紹介しよう。(次の記事へ続く)

インスタグラムもやってます。よかったらフォローよろしくお願いします。

https://instagram.com/tmathyblog?igshid=OGQ5ZDc2ODk2ZA%3D%3D&utm_source=qr