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ゼロから始める三角比 Part3

 前回の記事(ゼロから始める三角比Part2)では、図形(多角形)における最小単位(細胞)にあたる直角三角形について詳しく調べ、底辺の長さ  a とそれに隣接する角の大きさ  \theta に応じて定まる関数  L(a, \theta) についても触れた。今回の記事ではその関数  L(a, \theta) が満たす性質について、さらに詳しく調べていくことにしよう。

関数  L(a, \theta) のおさらい

 \; 3.1

 上の図3.1のように、底辺の長さが  a で、その両端の角のうち直角ではない方の角の大きさが  \theta であるような直角三角形ABCを考える。このとき、斜辺ABの長さは  a \theta の値に応じて定まる。このときの斜辺ABの長さを  L(a, \theta) と表す。

 前回の記事(ゼロから始める三角比Part2)でも述べたように、この関数  L(a, \theta) を我々がよく知っているような関数で明示的に表す方法は未だ発見されていない。したがって関数  L(a, \theta) はもうこの  L(a, \theta) という形のままで取り扱っていくしかないのだが、明示的な表現方法が無かったとしても、定義から直接成り立つ性質などがもしあればそれ自体は定理として有用である。よって、そういった性質が何か無いかどうかをこれから調べていこう。

関数  L(a, \theta) の基本性質

 関数  L(a, \theta) は実は次のような性質を持っている。

 L(a, \theta) = a \; L(1, \theta) \quad \cdots \cdots (\ast)

 L(a, \theta) L(1, \theta) a 倍したものに等しい。この性質は、実際に図を描いてみれば「三角形の相似性」からほぼ明らかではあるのだが、ここではあえて相似性は使わずに証明してみよう。

証明  \quad  L(a, \theta) L(1, \theta) を定義に従って図示すると、次の図3.2のようになる。

 \; 3.2

 図3.2において、三角形ABCの面積を  S 、三角形DBEの面積を  S_1 、四角形(台形)ADECの面積を  S_2 とおくと、

 S = S_1 + S_2 \quad \cdots \cdots (\ast\ast)

が成り立つ。

 今、三平方の定理より、

\begin{align} \displaystyle AC &= \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \\ \displaystyle DE &= \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \end{align}

が成り立つので、3つの面積  S, S_1, S_2 はそれぞれ

\begin{align} \displaystyle S &= a \times \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{a}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \\ \displaystyle S_1 &= 1 \times \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{1}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} \\ \displaystyle S_2 &= \left( \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} + \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \right) \times (a - 1) \times \frac{1}{2} \\ \displaystyle &= \frac{a - 1}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1} + \frac{a - 1}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} \end{align}

と表せる。

 これらを  (\ast\ast) に代入すると、

 \displaystyle \frac{1}{2} \sqrt{{L(a, \theta)}^2 - a^2} = \frac{a}{2} \sqrt{{L(1, \theta)}^2 - 1}

が成り立つ。両辺を2倍して2乗すると、

 \displaystyle {L(a, \theta)}^2 - a^2 = a^2 \left( {L(1, \theta)}^2 - 1 \right)

となるから、

 {L(a, \theta)}^2 = a^2 {L(1, \theta)}^2

となる。  L(a, \theta) は正の値しか取らないので両辺の正の平方根を取れば  (\ast) が成り立つ。

 図3.2では  a \gt 1 の場合を考えたが、  0 \lt a \lt 1 の場合も同様の方法で  (\ast) が示せる。  a = 1 の場合は明らかである。以上により、すべての正の数  a (\ast) が示された。  \qquad \blacksquare

この性質から何が言えるか

 この性質から何が言えるかというと、「関数  L(a, \theta) において  a がどんな値であっても、それは必ず  L(1, \theta) を用いて表せる」ということである。どんな  L(a, \theta) でもどうせ  L(1, \theta) で表せてしまうのだから、裏を返せば  L(a, \theta) という記号はもはや不要なのである(自分で定義しておいてなんだが)。  L(1, \theta) さえあればそれですべて事足りてしまう。というわけで、今後は  L(1, \theta) だけは特別扱いすることにして、 1, 」の部分を省略して単に「  L(\theta) 」と書き表すことにしよう。もし今後  L(\theta) という記号が出たら、それは  L(1, \theta) の略、つまり底辺の長さが  1 であるような直角三角形(下の図3.3のような状況)を考えているのだと思ってほしい。

 \; 3.3

そして今後は関数  L(a, \theta) に代わって関数  L(\theta) の性質を調べていくことにする。先ほど証明した性質を  L(\theta) の表記で書き換え、「L関数公式1」という名前で再掲しておこう。

L関数公式1  \qquad L(a, \theta) = a \; L(\theta)

 「図形(多角形)の性質を調べる」という大雑把なお話からスタートして、「直角三角形における関数  L(\theta) の性質を調べる」というかなり具体的なところまで「やるべきこと」を落とし込むことができた。これ以降のお話は、その「関数  L(\theta) の性質を調べる」という内容に焦点を当てて記事を書いていくことになるのだが、ここで一旦ここまでの内容(ゼロから始める三角比Part1~3)の総復習として、次の記事ではいくつか例題を解いていくことにしよう。(次の記事へ続く)

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