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主に数学関係の記事を書きます

命題論理 Part1

「論理のルール」の話

今回は「命題論理」をテーマにいろいろとご紹介しようと思う。この内容は、現在の教育課程では高校の数学(発展的な内容に限っては大学の数学)で学ぶことになっているが、大人になってからでもとても役に立つ「日本語の論理の話」なので、個人的な意見を言わせてもらうなら義務教育の段階で学んでも良いのではないかと感じるくらい重要な内容だと思っている。

この記事では数学を全く使わず中学生でも分かるようになるべくかみ砕いて説明していくつもりなので、数学がまったく分からない方でも安心して読み進めていってほしい。

命題とは

まず、「命題」という言葉の定義から始めよう。「命題」とは、

正しいのか正しくないのかを客観的に決めることができるような文章

のことを指す。

例えば、「今日の最高気温は25度である」という文章は、それに対して「正しい」「正しくない」の判断を客観的に行うことができる。「客観的に」というフレーズをもう少しかみ砕いて言うなら「誰がやっても同じように」と言い換えても良い。Aさんが「正しい」と判断したのにBさんは「正しくない」と判断するような状況はあり得ない、ということである。こういった文章は「命題」の1つである。

一方、例えば、「東京の夜景は美しい」という文章は、それに対して「正しい」「正しくない」の判断を客観的に行うことができない。なぜなら、「美しい」という概念が「主観的」な概念だからである。Aさんが「美しい」と判断してもBさんは「美しくない」と判断することは十分にあり得る。こういった文章はそもそも「命題」とは言えない。

真と偽

ある命題があったとして、その命題が「正しい」とき、その命題は「真である」という。逆に「正しくない」とき、その命題は「偽である」という。

日常会話でも「真偽を確かめる」などという言い回しがあるが、あの「真偽」という言葉はここから派生して生まれた言葉である。

命題の否定

ある命題があったとして、それに打消のニュアンスを付け加えた命題を、その命題の「否定」という。

例えば、「今日の最高気温は25度である」という命題の否定は「今日の最高気温は25度ではない」となる。ここから少しだけ「記号」を使わせてもらうことになるが、一般に、命題  A の否定は  \overline{A} と表す。この記号の書き方についても、最初のうちは抵抗感を持つかも知れないが、慣れてくると後々の理解の助けになる。

当たり前のことだが、命題  A の否定  \overline{A} をさらに否定したもの

 \overline{\overline{A}}

というのは、元の命題  A と同じである。これを「二重否定」という。

「かつ」と「または」

命題によく登場する単語として「かつ」と「または」がある。

例えば、「今日は気温が25度であり、かつ湿度が30%である」と言われたら、「今日は気温が25度である」という命題と「今日は湿度が30%である」という命題が両方とも真であることを意味する。一方、「今日は気温が25度であるか、または湿度が30%である」と言われたら、「今日は気温が25度である」と「今日は湿度が30%である」のうち、少なくともどちらか一方が真であることを意味する。

ここで注意しなければならないのは、「または」のニュアンスにおける「少なくともどちらか一方」という文言の解釈である。一般に「少なくともどちらか一方」と言われた場合、「どちらか片方」というニュアンスももちろん含まれるが、それに加えて「両方成り立つ」というニュアンスも含んでいることに注意されたい。例えば、先ほどの例で言えば、

今日は気温が25度であるか、または湿度が30%である

と言われた場合、これは

  1. 今日は気温が25度であるが湿度は30%ではない

  2. 今日は湿度が30%であるが気温は25度ではない

  3. 今日は気温が25度であり、かつ湿度が30%である

という3つの命題の意味を合わせ持っているということである。言い換えれば、

「両方成り立たない(気温も25度でないし湿度も30%でない)」
というパターン以外はすべて含む

という意味である。「どちらか一方」という文言だけなら上の1と2だけを指すが、「少なくともどちらか一方」という文言なので3も含むのである。このことから、「または」の命題は必然的に「かつ」の命題のニュアンスを含んでいることになる。

ここでも記号の話を少しだけさせてもらうが、一般に「 A であり、かつ  B である」という命題は記号で「 A \wedge B」と表す。さらに、「 A であるか、または  B である」という命題は記号で「 A \vee B」と表す。

「かつ」と「または」の否定

前節で、「または」の命題は「両方成り立たない、というパターン以外はすべて含む」と説明したが、これを言い換えれば、「『または』の命題の否定」は「両方成り立たない、というパターンのみ」であるということになる。

 A \vee B という命題があったとして、それの否定  \overline{A \vee B} は、 A B も両方成り立たない、つまり、

 A でなく、かつ  B でない

ということになるので、記号で書き換えると

 \overline{A} \wedge \overline{B}

と同じである。このことをまとめておこう。

「または」の否定公式
 \overline{A \vee B} \quad \Longleftrightarrow \quad \overline{A} \wedge \overline{B}

ここで「 \Longleftrightarrow」という記号は「同値」という意味の記号で、平たく言えば「同じ意味」というニュアンスの記号である。「イコール」のような記号だと思ってくれれば良い。今後ちょくちょく使っていくが、この記号自体の詳しい説明は今回の記事の本筋から逸れてしまうためこのくらいに留めておく。

さて、こうなると、「では『かつ』の否定はどうなるのか?」という疑問が自然とあがってくると思う。実は、「かつ」の否定も、上の公式の「かつ」と「または」をひっくり返すだけですぐに得られる。つまり、次のようになる。

「かつ」の否定公式
 \overline{A \wedge B} \quad \Longleftrightarrow \quad \overline{A} \vee \overline{B}

これも、先ほどの「または」のニュアンスを理解するときに使った考え方を応用すれば、さほど難しくなく理解できる。

  1.  A であるが  B でない

  2.  B であるが  A でない

  3.  A であり、かつ  B である

  4.  A でなく、かつ  B でない

という4パターンがあるとして、 \overline{A \wedge B} ということは、上の「3以外すべて」ということになる。1,2,4の3つの意味を合わせ持っているのは  \overline{A} \vee \overline{B} である。

上に挙げた「かつ」と「または」の否定公式には「ド・モルガンの法則」という名前が付いている。この記事でも今後何回か登場する用語なので覚えておいていただけるとありがたい。(次の記事へ続く)

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