この記事は、高校数学で学ぶ「極限」についてのお話。一応極限が分からない方でも分かるように書いているので、「そもそも極限ってなんだ?」という人もぜひ読み進めていってほしい。
高校数学における「極限」の定義
を自然数とする。数列 に対して、
とき、これを記号で
と表す。
これは、高校における「極限」の定義である。この定義に従うと、例えば
などが成り立つ。なぜならば、
からである。
そもそも「限りなく近づく」とはどういうこと?
しかし、この高校における極限の定義では、論理的に曖昧な点がある。それは【0に限りなく近づく】という言い回しである。【0に限りなく近づく】とは、具体的にどのくらい近づけばいいのか。0.1なのか、0.001なのか、はたまた0.00001なのか。その明確な「基準」がないからである。
そこで、例えば
という決め事を作ったとする。確かにこうすれば、明確な基準ができたことになるので【0に限りなく近づく】という言い回しの曖昧さは払拭される。
明確な基準ができたのでこれで一件落着
・・・かのように思われるが、実はこれでも数学の定義としてはNGである。なぜかというと、数学という学問における「定義」とは、暗黙のルールとして「誰もが納得できる客観的なものにしなければならない」ということになっているからである。
世の中には、もしかしたら
などと反論を持ちかけてくる人もいるかもしれない。数学に限らず、科学における定義というのは、一個人の勝手な主観で線引きを決めるのはご法度なのである。それは一個人の価値観の押し付けであり、それを学術的な定義に使うというのは数学うんぬん以前に倫理的な問題が発生する。
では、どうすればよいか。「言い回しの曖昧さを排除し、かつ、誰もが納得できる客観的な定義」とは、どうやって作ればよいのか。
実は当時の数学者たちも、この難題に何年、何十年と悩まされたのである。極限の概念自体が歴史上最初に登場したのは17世紀なのにも関わらず、その厳密な定義が提唱されたのは19世紀に入ってからなので、その間約200年、数学者たちはずっとこの難題に頭を悩ませていたことになる。
では、19世紀に入り、どういう定義が提唱されたのか、それを紹介しよう。(次の記事へ続く)
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